職人瓦版

2018年11月15日

郡上踊りのための”踊り下駄”。地産地消にこだわった「郡上木履」のものづくり

岐阜県郡上市八幡町。城下町の趣が残るこの町で、7月中旬から9月上旬にかけて、33夜にわたって行われる「郡上踊り」。お盆の4日間は、朝まで踊りが続く「徹夜踊り」で、その熱気は最高潮を迎えます。


観光客も地元の人もひとつになって踊る。

郡上踊りの起源は400年前、城主が「盆の4日間は身分の隔てなく無礼講で踊るがよい」と、村々で行っていた盆踊りを城下に集め、士農工商の融和を図ったことに由来するそうです。

そのためか、郡上踊りは、“見るおどり”ではなく、“踊るおどり”と呼ばれ、地元の人たちはもちろん、観光客も一緒になって、思い思いに踊ります。

町中に響く、賑やかなお囃子、踊り手たちの手拍子、そして、カーンと下駄を鳴らす高らかな音――。

そんな、郡上踊りに魅せられ、この町に移住し、郡上踊りで使われる下駄づくりをはじめた人がいます。

下駄消費量日本一なのに、下駄をつくる職人がいない


お客さんの足に合わせて、鼻緒をすげる諸橋さん。

小京都と呼ばれる古い街並みの一角に店を構える「郡上木履(ぐじょうもくり)」。郡上踊りのための“踊り下駄”を専門に企画・制作・販売しているお店です。

代表をつとめるのは、諸橋有斗(もろはし・ゆうと)さん。愛知県出身で、岐阜県立森林文化アカデミーで木工を学び、卒業後、郡上に移住して、下駄づくりをはじめました。

きっかけは、学生時代に、郡上出身の友人に連れられて、初めて訪れた郡上踊りでした。たちまち、郡上踊りに魅せられてしまい、「自分も下駄が欲しい」と、地元の履物屋さんに行ったそうです。

「そこで、お店の方と話をしているうちに、下駄消費量日本一といわれる町でありながら、下駄が地元で作られていないことを知りました。しかも、周りには豊かな森林があるにも関わらず、もったいないと思いましたね」(諸橋さん)。そこから、「郡上産ヒノキの下駄作り」をテーマに制作をはじめました。

実は、郡上はもともと、下駄の産地だったそうです。しかし、靴の普及により、下駄が普段使いされなくなると、次第に職人もいなくなってしまいました。

郡上の下駄産業は、一時の空白を経て、諸橋さんの“踊り下駄”としてよみがえることとなったのです。

郡上の木材、郡上の染め物で。 “メイドイン郡上”にこだわった“踊り下駄”


好きな柄の鼻緒を選べるのが楽しい。
鼻緒は、郡上のシルクスクリーンや郡上藍染めによる布地などを使っている。

諸橋さんがこだわったのは、“メイドイン郡上”の“踊り下駄”。郡上の森林で育ったヒノキを材料に、郡上の工房で制作し、郡上の町で販売しています。

「全国的に、下駄は、軽くて歩きやすいキリやスギを使うのが一般的です。しかし、『郡上木履』の下駄は、郡上踊りのための下駄です。重すぎずより丈夫で、歯を地面に打ち付けた時に美しい音になるようにヒノキを使っています。郡上ではうちのほかに4店舗の下駄屋さんがありますが、みなさんヒノキ製の下駄を扱っていらっしゃいます。

そして、一般的な下駄が、台に歯をくっつけてつくるのに対し、うちの踊り下駄は、徹夜踊りにも耐えられるように、ひとかたまりの木から歯を削り出し、継ぎ目をなくしました。


ひとかたまりの木から歯を切り出して、形を整えているところ。

そして、踊り姿が美しく見えるよう、50cmと少し高めにつくっています」(諸橋さん)。

木材だけではなく、カラフルな鼻緒も “メイドイン郡上”です。

「郡上は生地産業がさかんです。鼻緒は、地元の職人さん達とコラボレーションして、郡上発祥といわれるシルクスクリーンや、天然の藍草を用いる郡上藍染めの布地を使っています。

郡上踊りは誰でも参加できるのが魅力です。着物ではなく洋服で踊るけれど、下駄だけ履きたいという方も多くいらっしゃいます。そんな方も意識して、モダンなデザインの鼻緒もたくさんそろえています」(諸橋さん)。

こうしてつくられる踊り下駄は年間4000足。そのうち3000足は郡上踊り期間中に、さらにそのうち1200足は徹夜踊りの4日間に売れるそうです。まさに、「郡上木履」の踊り下駄は、郡上踊りと共にあります。

木を伐って使っていくことで、森を元気にしたい


下駄は、需要の少ない冬に制作し、郡上踊りのシーズンに販売する。

岐阜県立森林文化アカデミーで木工技術だけでなく、森林環境についても学んできた諸橋さん。卒業後には、郡上の間伐材を利用した木製品や割り箸の製造販売を通して、山の現状を伝えている、株式会社郡上割り箸の一部門として、踊り下駄づくりを行ってきました。独立したのは、2年半後のことです。

「森林の木は使って循環させていくことで元気になるんです。一昔前、スギやヒノキなど針葉樹が大量に植えられました。しかし、どんどん使わなくなっているので、循環がうまくいっていません。

これらは使えば使うほど森が良くなると言われています。さらに、地元の木を使うことで、地場の林業も活気づきます。


上は新品の下駄。下は、郡上踊りが大好きな、高校生の男の子が履きつぶした下駄!
ワンシーズンで3足履きつぶしたそうです。

郡上では、多い人で、ワンシーズン3足の下駄を履きつぶします。森林の規模に比べて、下駄に使う木材は微々たるものかもしれません。でも、下駄を通して、郡上の木を身近に感じ、郡上の森のことを知ってもらえればと思っています」(諸橋さん)。

「最近では、『下駄を買ったから、郡上踊りに行ってみよう』と言って下さる方も増えました。下駄づくりを通して、郡上に貢献できると良いなと思います。そのためには、何よりも、続けていくことが大事ですね」(諸橋さん)。

「郡上木履」では、通信販売も行っています。しかし、「できればお店までお越し下さい。足に合わせて鼻緒をすげさせていただきます」と諸橋さん。バリエーション豊富な鼻緒から、お好みの柄を選ぶのも楽しみです。来年の夏は、「郡上木履」で踊り下駄を買って、郡上踊りに参加してみませんか。

郡上踊りの期間中、「郡上木履」は、踊りが終わる時間まで営業しています。もし、踊りの途中で足が痛くなっても、お店に行けばいつでも鼻緒を調整してくれるそうです。
取材協力:諸橋有斗さん(郡上木履

撮影:櫻堂(諏訪貴宏)

職人圖鑑編集部

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