伝統・文化

2019年07月01日

くじらをモチーフにした三河内焼。「光雲窯」今村隆光の世界

有田焼で知られる佐賀県有田町や、伊万里焼の佐賀県伊万里市と隣接する長崎県佐世保市。佐世保市の三川内町という地域で、三川内焼(みかわちやき)という陶磁器がつくられているのをご存知ですか。

白磁に呉須(ごす)という青い染料を使った染付けが特徴的で、中国風の服装と髪形をした子ども「唐子」の絵柄がよく知られています。かつては平戸藩の御用窯として、時の将軍にも献上され、南蛮貿易でもさかんに輸出されていたそうです。

今回は、三川内皿山(皿山とは、陶磁器を生産していた地域を指す九州地方の言葉)にある窯元「光雲窯」を訪ねました。「光雲窯」の今村隆光さんは、伝統工芸士にも認定されている名工で、くじらをモチーフにした作風で知られています。

三川内焼の信条は“繊細優美”。白磁に藍が映える陶磁器。

唐子は繁栄の象徴として、江戸時代後期から、代表的なモチーフとして描かれるようになったといいます。

長崎県佐世保市の中心部から車で30分程の小さな山あいに、三河内皿山という陶工たちが集まる集落があります。16世紀末、文禄・慶長の役の頃に開かれ、江戸時代には平戸藩の御用窯にもなりました。今ではだいぶ数が減ってきているそうですが、それでも、20数軒の窯元が点在しています。

「三川内焼の信条は“繊細優美”」と、今村さん。三川内焼の特徴は、天草陶石を用いた艶めかしい白磁に、呉須(ごす)という青い染料による繊細な絵付けにあります。御用窯であったことから、繁栄の象徴である唐子のモチーフもよく描かれました。

その他にも、水でうすめた化粧土(けしょうど)を何度も塗り重ねて立体的な絵を描く「置き上げ」という技法や、生の素地を切り取り穴を開けて装飾する「透かし彫り」などという技法も三川内焼ならではの伝統的技法です。

実は、一時、「置き上げ」ができる職人はいませんでしたが、三川内焼の技術再興の取り組みにより、今村さんが「置き上げ」を担当し、十数年ぶりに、その技術を再現したといいます。卓越した技術者に送られる現代の名工にも選ばれた今村さんだからこそなせた技でしょう。

「置き上げ」にて立体的な絵柄をつけている様子。「厚く塗ると剥がれてしまうので、薄く何度も塗り重ねます」と今村さん。

「置き上げ」で描いた鶴。絵付けだけで、丸1日かかるそうです。

一番好きなのはザトウクジラ。今村さんがくじらを書き始めた理由とは。

今村さんは、20年以上、有田の大手陶磁器メーカーに勤務し、おもに山水画を担当していたといいます。「光雲窯」を開いたのは、今から30年ほど前、今村さんが39歳の時でした。

「光雲窯」は、今村さんの代で窯元になりましたが、今村家は代々三川内焼にたずさわり、お祖父さまが絵付け師、お父様がろくろ師だったそうです。

「会社に入った時から、自分の窯を持ちたいという夢はありました。でも、つい20年以上もいてしまった。食べていけなくなる可能性もあるから、なかなか踏ん切りが付かなくてね」と当時を振り返ります。

有田で腕を磨いたという山水画もさることながら、今村さんといえば、くじらのモチーフがあまりにも有名です。捕鯨が行われた歴史があり、くじら文化が息づく長崎らしい絵柄です。
「光雲窯」を訪れると、展示販売コーナーにはさまざまなくじらモチーフの陶磁器が並んでいました。

愛嬌のあるかわいらしいくじら、ダイナミックに尾をひるがえすくじらなどタッチも様々。ザトウクジラ、マッコウクジラ、セミクジラなど種類も豊富です。

くじらを描き始めたきっかけをうかがうと、「くじらの研究家と知り合い、そこからくじらの愛好会を通してネットワークが広がって、100人以上のくじら好きと繋がったんですよね。そこで、くじらの魅力にとりつかれて描くようになりました。仲間から資料や写真をもらったり、『尻尾はそがん形しとらん』などと叱られながら勉強しました。実は、実物のくじらは見たことがないんですよね。仲間達も『ぜひ、見てくれ』と言うんですよね」(今村さんは)。

想像の翼を広げて描いたくじらが、あまりに活き活きとしているので、とても驚きました。ちなみに、一番好きなくじらは、ザトウクジラなのだそう。「ダイナミックな尾の形が好きなんです」と今村さんは言います。

「青海波の中にくじらを描くと、吸い込まれるようになるんですよね。これは偶然発見しました」と、今村さん。

ろくろから絵付けまで、すべての工程を1人で。陶房の様子を見学。

今村さんはお1人で、ろくろから絵付けまで、すべての工程を行っているそうです。陶房の中も案内していただきました。

こちらが、ろくろ場です。成形した生地を乾燥させ、表面の粗い部分を削り滑らかにしていきます。

ろくろ場の様子。

アトリエでは、素焼きした生地に絵付けをする様子も見せていただきました。まずは、型を押し当てて下絵を写し付けます。

「和文タイプ用紙で作ったという型。押しつけて、絵柄を写します。その上から、顔料の呉須で絵を描いていきます。

「アトリエには、30年間で蓄積してきたという型が入った箱紙が所狭しと積まれていました。

巧みな筆使いで、繊細な線をひく様に思わずため息。

机の上には大小様々な筆が立てられていました。「鹿の毛、ネズミの毛、テンの毛など、いろんな素材でできた筆があります。線の細さなどにより使い分けているんです」(今村さん)。絵柄が繊細で複雑になるほど、手間も暇もかかります。

アトリエの机の上には、太さも素材もさまざまな筆が並んでいました。

そして、ここが窯です。この日は、土ものを焼くところでした。

「窯を案内してくれる今村さん。

「何も描かれていないように見えますが、土ものは釉薬の下に色が付いているため、焼き上がったら絵柄と色が出てくるそうです。

「一番、脂がのっていたのは56~57歳頃だったなあ。体力もあったし」と言いながら、当時描いた唐子柄の酒器を見せてくれた今村さん。圧倒されるほどの緻密な線で描かれていました。

今村さんは、今年70歳になられましたが、今も、精力的に作品づくりに取り組んでいらっしゃいます。最盛期は56~57歳頃という言葉が信じられないくらいです。

6月に、東京都美術館で行われた「日工会展」では、「海の遣い」と題された花器を発表。青磁色の海にリュウグウノツカイが活き活きと描かれた幻想的な作品でした。

また、今村さんは、陶器づくりも行っています。「土ものは趣味程度です。窯の炊き方で仕上がりが激しく変わるからおもしろいんですよ」と話されていました。三川内焼とは対照的に力強い絵柄で、こちらもまた個性的です。「土ものは灰釉をかければ散ってしまうから、繊細な線では描けないんです」(今村さん)。

今村さんによる陶器。くじら漁の様子が迫力満点に描かれています。

「最近は、恐竜を描くのも好きなんですよ」と話されていたのも印象的でした。確かな伝統技術を受け継ぎながら、創作意欲の赴くままに、次々と新しいことに挑戦されている今村さん。次はどんな作品をつくられるのか楽しみです。

【お知らせ】
7月1日にオープンする『職人圖鑑セレクトショップ』で、「光雲窯」の今村隆光さんによる「三河内焼 くじらのうつわ」を限定販売します。少しずつですが、すてきな作品をご紹介しています。ぜひ、こちらもチェックしてみてください。

 

取材協力:光雲窯
写真:諏訪貴洋(櫻堂)

職人圖鑑編集部

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