生き方

2020年03月27日

雨の日が待ち遠しくなる!熟練の傘職人が丁寧に縫い上げる「モンブランヤマグチ」の高級美術洋傘

モダンで華やいだパリのパッサージュ、モノクロ映画で見たノスタルジックなガス燈、おしゃまな猫にすました犬…。傘をパッと広げて見上げると、そこにはまるで西洋画のようなアートな世界が広がります。

「シャンデリア グリーン」

 

「ガス燈 白/黒」

 

「ねこ ブルー/パープル」

そんな、雨の日が楽しみになるような美しい洋傘をつくるのは、東京スカイツリーのお膝元墨田区太平にある東京洋傘の老舗、モンブランヤマグチです。

創業は昭和35年のこと。当時、職人だった会長が、「自分でデザインした傘をつくりたい」と独立したのが始まりでした。

こちらの洋傘は、すべて傘職人による手づくり。ぼやかしたような優しい絵柄は、日本古来より着物に用いられてきたほぐし織りにより表現されています。

そんなエレガントで美しい洋傘はどのようにしてつくられているのでしょう。

モンブランヤマグチの販売部門である株式会社モンブランの取締役であり傘職人でもある山口君枝さんと、傘職人歴65年以上の小川信二さんにお話を伺いました。お二人とも、東京都伝統工芸士に認定されています。

このままでは技術が途絶える…。危機感を持った山口さんは自社の職人から技術を学ぶことに

株式会社モンブランの取締役・山口君枝さん。経営に携わりながら、自らも職人として傘づくりに携わる。

「この家に嫁いできて、家業を手伝っていましたが、まさか自分がつくるようになるとは思いもしませんでした。でも、職人が一人減り、二人減り……、これでは技術が途絶えてしまうと思って、じゃあ自分でもつくろうかなと思うようになったんです」(山口さん)。

そして、東京洋傘協同組合の養成講座で学んだのち、自社が抱える6人の職人達に教えてもらいながら技術を身に付けていきました。

「私は、ずうずうしく、いろんな職人さんたちのいいとこ取りをさせてもらっています。みんなそれぞれ、つくりかたが違うんですよ」と、山口さんは豪快に笑いながら話してくれました。その横で、小川さんがニコニコと優しく微笑んでいます。

モンブランヤマグチ専属の傘職人の小川信二さん。普段は自宅で仕事をしている。

「裁断した型のカーブの深さだったりね。みんな違うんですよ。こういうのはね、自分で考えて身につけるんです。それこそ、親方からは目で盗めって言われてね。教えてくれないんですよ。自分で何本も何本も試して、布をたくさん無駄にして自分のものにするんです。それが勉強だと思います」(小川さん)。

傘が飛ぶように売れた時代。集団就職で上京して傘職人に

傘の生地を、スイスイと縫い合わせる小川さん。

小川さんが、浅草橋の親方に弟子入りしたのはおよそ65年前のことです。

「気の遠くなるような昔でしょう?私は、埼玉から東京に働きに出たんですよ。職人になったのは、生きていくためです。それこそ、集団就職で出てきたんです。

修行も大変でしたね。当時はね、内風呂なんかないから銭湯に行くんですけど、夜中まで仕事をしていたから、閉まるギリギリに滑り込むの。掃除を始めちゃってる横で、お風呂に入っていたなあ。朝もね、仕事をしてから食事だったね」と、懐かしそうに話されます。

当時は、とにかく“つくれば売れる”という時代で、たくさんの傘職人がいたそうです。

「だから、会長や小川さんと同じ世代、70代後半から80代前半の職人さんが多いですよね。うちの会長も昭和8年生まれて、14歳の時に傘屋さんに丁稚で入ったんですよ。

でも、今は技術が海外に流出してしまって、安価な傘で溢れています。そのため、国内で内職されていた方も随分仕事を失ったと思いますね。こういった状態ですから、跡を継ぐ人もいません。職人さん自身が子どもには『サラリーマンになれ』というほどですからね」(山口さん)。

「うちの職人が一番!」と山口さん。高度な職人技から生まれるモンブランヤマグチの洋傘

傘の継ぎ目にダボの布を縫い付ける小川さん。傘づくりは工数が多い。

モンブランヤマグチの洋傘は、巷に溢れる量産品とは一線を画します。ほぐし織りの布を使って、熟練の職人が1本1本、丁寧につくっています。

「私は、うちの職人が一番だと思っています。ほぐし織りで傘をつくるにはそれなりの技術が要ります。『傘がつくれます』という人に、この生地を渡してもだいたいつくれないんじゃないでしょうか。織物なので、柄と柄を合わせながら縫うのが難しいんです。長年やってくれた職人さんだからこそ、細かい調整ができるんですよね」(山口さん)。

 

三角に裁断した生地のパーツを駒(こま)という。これを縫い合わせて傘地をつくる。

「私が弟子入りした頃は、綿でつくっていました。やがて、ナイロンになりましたが、これは夏につくると冬に縮んでしまいましたね。それで、今度はポリエステルになりました。ポリエステルは縮まなくていいね。

ほぐし織りは縮まないし、伸びないし、良い生地だと思います。つくり手としては、最初は扱いづらいと思うけど、もう慣れちゃいましたね。

ほぐし織りの生地は最初から耳も付いているんですよ。普通の傘は耳をミシンで縫うんですけどね」と、65年以上の経験の中で、さまざまな生地を扱ってきた小川さんは、ほぐし織りの生地についてこう評します。

ほぐし織りの魅力は、そのファッション性と機能性にある

絵柄を染めた後の、縦糸と仮糸の状態。この後、本織をすることで、目の詰まった丈夫な布になる。

生地は山梨から仕入れているそうです。着物の着尺は約45cm幅ですが、傘づくり用に特注の幅でつくってもらっているといいます。

ほぐし織りの生地は、ぼやっとしたにじんだ感じの柄が、まるで印象派の絵画のようでなんともいえない魅力があります。

これは、仮止めの横糸を入れた手捺染で柄を付けた後、横糸を抜いていくためです。その際に、絵柄が微妙にずれて、絵の具がにじんだような風合いになります。

「ほぐし織りの良さは、裏からも柄が見えること。傘を差している方も見上げると柄が見られるんですよ。プリントじゃできないことです。

それに、使う方の装いによって印象がまったく変わるんですよ」(山口さん)。

ファッションの一部として傘をコーディネートすれば、憂鬱な雨の日も楽しくなりそうです。

裏側から見ても柄が美しく見えるのがほぐし織りの傘の魅力。

また、ほぐし織りの生地は目が詰まっていて、丈夫で長持ち。メンテナンスしながら、20年、30年使っているお客さんも多いといいます。
一生ものにもなり得るモンブランヤマグチの高級美術洋傘。そのブランドと品質を支えるのは、傘づくりに生涯をかけてきた熟練の職人たちの地道で丁寧な仕事の積み重ねでした。

山口さんがパッと傘を開いて見せてくれるたびに、なんだか気持ちが弾んできました。
本物の輝きは、人の心を揺さぶります。

取材協力:モンブラン
写真:諏訪貴洋(櫻堂)

職人圖鑑編集部

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