伝統・文化

2020年12月18日

心にぽっと、あかりを灯す和ろうそく。能登七尾「高澤ろうそく店」

仕事に疲れて帰ってきたある日の夜、ふと思いつき、南部鉄器の燭台でハゼロウの和ろうそくに火を灯す。
炎は大きくゆっくりと燃え、やわらかな光を放つ。
炎に照らされたものが映りゆらゆらと形を変えている。

じっと見つめていると、子どもの頃、祖母の家に泊まりに行ったことを思い出す。
仏間で寝ていた私の周りは線香の香りに包まれ、灯明された炎が、早朝のまだ薄暗い部屋に点線の光となって放射線状に輝いていた。

能登で出会った、老舗の和ろうそく


1892年創業。能登七尾の和ろうそく専門店。

この和ろうそくと出会ったのは、石川県七尾市の旧街道・一本杉通りにある老舗「高澤ろうそく店」(※)でした。燭台もここにあったもので、南部鉄器の大胆で重厚な曲線と小さくてかわいい蝶のデザインをひと目で気に入りました。

大きな暖簾をくぐりお店に一歩入ると、気品あるお香の香りに迎えられます
有形文化財にも指定される土蔵造りの店舗は、明治43年に作られた重厚な建物で、1階がお香やろうそくの販売を行うショップで、2階は小さなろうそく博物館になっていています。


2階にあるミニ博物館。和ろうそくの製法や歴史に触れられる。

潮風が優しく薫る七尾湾に面したこの地には、かつて北前船が往来し、頻繁に商人が物を売り買いして活気にあふれていた時代がありました。


高澤ろうそく店・五代目店主の高澤久さん。

「城主前田利家が領有した時代、七尾で材料が取れなくても、北前船で調達して、また各地に出荷して商売ができると始めたものが、七尾の和ろうそくでした」と、教えてくれたのは五代目店主の高澤久さんです。

材料は植物由来。やわらかなあかりの和ろうそく


ハゼロウの和ろうそく。

あかりは、まるになったり三角になったり。
江戸時代からひとつひとつ手作りされている和ろうそくのともしびは、いろいろな表情を見せてくれます。

原料となるロウは様々あり、ハゼの実、ヤシの実、菜種、米ぬか、うるしなどすべてが植物由来です。


右が原料のハゼロウ。

和ろうそくの芯は、筒状にした和紙に、髄の部分がスポンジ状になっているふわふわとした感触の灯芯草をくるくると手巻きしてつくります。その芯の周りにロウを流し固めてろうそくができあがります。


職人が手作業で、和紙に灯芯草を巻く。


和ろうそくの芯。ストローのように空洞になっている。


芯を挿し、その周りにロウを流し入れて固める。


固まったろうそく。この後、細部の形を整えてできあがり。

和ろうそくは、消えにくくしっかりとした炎が立ちます。着火すると、熱により溶けたロウが芯を伝って吸い上げられ、ストローのように空洞状の芯から、常に新鮮な空気に触れながら燃えるためです。

「和ろうそくは、海外製のような鉱物を原料としたパラフィンロウではなく、植物由来のロウ、例えばハゼの実から取ったロウを使います。芯の部分はイグサの一種の灯芯草を使っています。また温められて溶けたロウが芯を通って吸い上げられて燃えるのでロウが垂れることもほとんどありません」(高澤さん)。

和ろうそくのあかりを消さないために


1本1本、職人が手描きした絵ろうそく。

いま、和ろうそくは、お寺の仏事、神社の燈明、茶道の席、そして家庭の仏壇用などに使われていますが、普段、目にする場面は少ないかもしれません。

そして、電気の普及や核家族化など社会構造の変化によって、国内での和ろうそくの生産量も少なくなってきました。石川県内で和ろうそくをつくり続けているのは「高澤ろうそく店」唯一つです。

「暮らしの中で火を灯す場面が減りつつある中、私たちは、和ろうそくのあかりの魅力を伝えることが大事だと考えています。和ろうそくにあかりを灯すことで、心が落ち着くひとときを過ごす。炎を眺めることで心が元気になる。そんな時間をお届けしたいと思います。

また、和ろうそくづくりの現場でも、先人から伝えられた知恵や工夫を大切にし、次の世代に伝えていくためにも、若い人たちに働いてもらうようにしています」と高澤さん。

日本人の信仰とあかり。闇に迷いながら生きる人々の道標


ヤシの実ロウの和ろうそく。

一隅を照らす信仰のあかり。
神仏にお供えするあかり。

それは「無明を照らす智慧の光」「悟りの光」「魔を払う光」という意味があり、特に神聖なものとされています。

仏壇に灯すあかりは、神仏への感謝、そして先祖に供養を伝える大切な祈りであり、現代を生きる私たちと、平和な世の中を結ぶ役割があると考えられます。

昔も今も変わりなく、夜道に迷わないための常夜灯があるように、ろうそくのあかりは不安や孤独に負けないために、神仏を照らす光になっていったのです。

このようにしてろうそくのあかりは、日本人の信仰と共に受け繋がれてきたのではないでしょうか。

コロナ禍の今こそ、時間をかけて現代人の体に休息と癒しをもたらす、ろうそくのあかりが必要なのかもしれません。


南部鉄器の燭台で、和ろうそくに火を灯す。ゆらゆらと蝶が舞う。

和ろうそくにそっと火を灯すと、そこにはゆったりとした時間が流れる。
日々の疲れや硬くなった心に、和ろうそくの優しいあかりがともり、壁や天井にぼんやりと広がり影が揺らぐ。

灯したあかりの記憶を辿って、祖母の家の温かさを感じた。
祖母の家の温かさがなんであったか。和ろうそくが、心の奥深くの目に見えない懐かしい記憶を思いださせてくれた。

懐かしいあかりは、明日に向かうためのあかり。そんな風に思い、また一本と、和ろうそくに火をともした。

取材協力:高澤ろうそく店
撮影:諏訪貴洋
執筆:松林美樹

※「高澤ろうそく店」の「高」ははしごだかです。

職人圖鑑編集部

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