茨城県笠間市の山里に工房を持つ陶芸家・大貫博之さん。シャープな線のうつわに、椿、桜、菖蒲、百合など、草花をモチーフにした絵付けが印象的です。草花といっても写実的な表現ではなく、パーツの組み合わせで描かれており、着物などテキスタイルの模様のようです。
山桜を描いた花瓶。
「私が描いているのは、身近な草花です。自然のままに野に咲く藪椿、派手さはないけれど萌黄色が美しい山桜が好きですね」と大貫さんは穏やかに話されます。
今回は、大貫さんの作品の魅力と、個性豊かな作風の背景に迫ります。
「かたちに残る仕事がしたい」と広告デザイナーから陶芸家に転身
大貫博之さん。工房にて。
大貫さんがこの作風にたどり着いたのは、陶芸家になる前の経歴も無関係ではないでしょう。
大貫さんは、美術大学で学び、卒業後はグラフィックデザイナーとして広告デザインに携わっていました。陶芸家に転身したのは、30歳を過ぎてからです。
「広告デザインは、早いサイクルで消費されていくんですよね。だから、かたちに残るものがつくりたいと思うようになって。また、広告は、カメラマンがいて、イラストレーターがいて、コピーライターがいて、といった具合に分業でつくるのですが、最初から最後まで自分の手でものをつくりたいという思いもありました。
それから、ちょうど、長男が生まれたばかりで、東京で子育てをするのはどうかという思いもあって、笠間に移り住んで陶芸の道に進んだんです」(大貫さん)。
茨城県の窯業指導所(現・笠間陶芸大学校)で学んだのちに、師匠について、その後、独立して、現在の地に工房をつくりました。
左が、草花モチーフの作品。右が、モノトーンのシリーズ。
最初は、ろくろで、モノトーンのうつわをつくっていました。現在も、人気シリーズとして続いています。
そして、いつの頃からか、現在のように、たたらづくりで、象嵌と上絵で、草花をモチーフにした模様を纏わせた作品をつくるようになりました。
「東京から笠間に来て、身近にある野山の花々を描きたくなったんです。ここには、四季折々にいろんな花が咲くんですよ」(大貫さん)。
たたらづくりの生地に、鉄化粧、白化粧、上絵を丁寧に纏わせる
彫を入れた後、白泥で白化粧を施したところ。
大貫さんに、作品ができるまでの工程を教えていただきました。
陶芸といえば、ろくろや紐づくりのイメージが強いですが、大貫さんはたたらづくりで生地を成型します。粘土を板状にしてパーツに切り出し、貼り合わせて形をつくる技法です。設計図をひいて、型紙をつくって切り出したパーツを組み合わせるため、シャープなフォルムができます。
型紙を当てて、粘土を切り出す。
パーツを貼り合わせる。
半乾きの生地に、スポンジでポンポンと軽くたたきながら鉄化粧を施します。
鉄化粧を塗る。
その後、型紙を当てて草木の絵柄を写し、写した線に沿ってニードルで彫を入れます。
絵柄を転写。
ニードルで線を彫る。
その上に、白泥で白化粧を施し、本焼きへ。焼きあがったら上絵付けをして完成です。
設計図をひいて、型をつくり、レイヤーを重ねていく手法は、まるでグラフィックデザインの制作過程のようです。
色白で凛として美しい姿かたちの生地に、鉄化粧、白化粧を重ね、草花の絵柄を纏わせていく工程は、色白でしなやかな女性に、化粧をして、着物を着せていくようにも見えます。
作家の数だけ個性がある。若手作家が活躍する風土
蓮を描いた一輪挿し。
ところで、笠間焼というとどんなイメージでしょうか。実は、「これが笠間焼だ」というものはなく、個性豊かな作家たちが多種多様なうつわをつくっています。
「他産地の陶芸家の方とも交流がありますが、『笠間は自由でうらやましい』と言われたりしますね。伝統的な産地だと、『家業だから継がなければ』とやっている方もいますしね。
笠間は陶芸大学校があったりして、若い人がたくさん入ってくるんですよ。ゴールデンウィークに行われる陶炎祭(ひまつり)の陶器市には220~30軒くらい出店しています」(大貫さん)。
大貫さんの作風もまた唯一無二。笠間では、絵付けをする作風の人自体が少ないそうです。
このように、笠間焼が自由な気風になったのは、その歴史にありました。
笠間では、江戸時代中期に、信楽の陶工による指導のもと陶器づくりがはじまり、明治時代までは甕やすり鉢など厨房用粗陶器の産地として知られていました。しかし、終戦後、プラスチック製品などの流入により、これらの需要が激減。一時は、その火が消えかけましたが、窯業指導所で陶工を育成するなど試行錯誤の末、作家の個性を重んじる方向へと舵を切り、現在に至ります。
伝統工芸の今を追う『職人圖鑑』。新しい波の中にいる大貫さんに、聞いてみました。
――伝統とは何だと思いますか?
「自分が伝統工芸をしているというつもりはあまりないですね。やりたいことをやっているだけです。どう見るかは、見る方にお任せします。
伝統って、古いものを代々伝えるイメージですが、今の風潮としては、若い人が入ってきて、古き良きものに新しいものが加わって、新しい伝統ができるという流れがあるように感じます」(大貫さん)。
大貫さんは、今、新しい作品にも取り組み始めています。
「造形的なものに挑戦したいと思って」と、ずっしりとした香炉、花瓶、ぐい呑みを見せてくれました。塊を掘ってつくったそうです。
手前、花瓶。奥、ぐい呑み。
香炉。
まだまだ、取り組み始めたばかりだといいます。今後、どう進化していくのか楽しみです。
取材協力:大貫博之
写真:諏訪貴洋(櫻堂)
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