温もりを感じる土の風合いと、刷毛目や飛び鉋など、素朴な幾何学模様が魅力の小鹿田焼。
大分県日田市の山あいにある小鹿田皿山地区で、300年以上、柳瀬、黒木、坂本という三家に連なる系譜によって、代々、伝統技術を受け継いできました。その技法は、開窯して以来、ほとんど変わらず、土づくりから焼成まですべて人の手によって行われています。
※小鹿田焼の歴史についての詳細はこちらの記事でご紹介しています。
今を生きる陶工は何を思い、300余年の伝統を受け継いでいるのでしょうか。また、次世代に対する思いとは。小鹿田焼で9代続く窯元の8代目当主・坂本工さんに、家業に入って40年経った今、思うことをうかがいました。
300年以上続いてきた家業を継ぐということ
坂本工窯の工房にて。
若い頃、自分が家業を継ぐという自覚はあったのですか?
坂本さん 中学生、高校生くらいの時は、出て行きたいと思っていました。でも、自分が継がないと仕方がないということはわかっていましたし、継いだら、一生ここにいなくてはいけないので、「今しかない」と、高校を出たら東京の専門学校に行きました。
修業を始めるなら、若ければ若いほどよく、18歳ではじめるのと、20歳ではじめるのとでは雲泥の差がでるといわれます。だから、継ぐ気があるのなら、一刻も早く修業すべきだったのでしょう。
でも、今になって、やっぱり外に出てよかったと思います。技術はなんとかなります。あとは発想の違いですから。うつわ以外のことをしてきた方が、うつわがうまくなると思うんです。
蹴ろくろをゆっくり回しながら、刷毛目を付ける坂本さん。
子どもの頃から作陶に携わっていたのですか?
坂本さん まったくやっていませんでした。東京に行って1年半くらい経った頃、父が倒れてしまい、卒業を待たずに戻ってきて、その時に、初めて触りました。何もできなくて、近隣の黒木才人さんに半年くらい面倒を見てもらっていました。
主役は料理だから引き算でつくる。うつわは2割
坂本さんがつくったすり鉢。
この仕事のおもしろさは?
坂本さん まず、前提として、好きとか嫌いとかで仕事をしていないです。個人の作家さんは好きでこの道に入ったのでしょうが、自分たちは家業で否応なくやっているので。でも、好きにならないと続かないから、無理矢理そう思うようにしてきました。
若い頃は、うまくなるのが実感できた時に、楽しいと思いましたね。今思えば勘違いでしたが、いい勘違いでした。いい勘違いはした方がいいですよね。
ただ、最近は、本当に、自然に近い作業がおもしろいなと思います。
化粧土を塗り、蹴ろくろを回しながら、小指の爪で掻いて模様を付けているところ。
うつわづくりで心がけていることは?
坂本さん 20点のうつわをつくることです。やはり、主役は料理であり、80~90点を占めなければなりません。だから、引き算で8割、除けなければいけないのです。でも、やりたくなるんですよね。それに、引き算しすぎると売れません。さじ加減が難しいところです。
息子と2人で作陶する日々。時代が違うから、やり方は違う
ろくろ場にて。
ご自身の作ったうつわは普段も使いますか?
坂本さん 食事の時まで仕事のことを思い出したくないから使いません(笑)。他産地うつわを使うことが多いですね。作り手同士、物々交換みたいな感じで、よくいただくんです。小鹿田焼には角皿など型ものはないので憧れたり、同じグレードまでいきたいと刺激を受けたり、学ぶことも多いです。
現在、一緒に仕事をしている息子の創さんも家業を継ぐことに抵抗はなかったのですか?
坂本さん 継ぐようにな方向にもっていったつもりはあります(笑)。じっと待っていて、自然に継ぐということはありえませんから。
息子は、18歳で鳥取へ修業に行き、バーナード・リーチ先生から直接指導を受けた著名な先生に師事しました。息子ながら、よく頑張ってきたなと思います。
現在は戻ってきて2人でやっていますが、8割方、息子がやっています。私は、注文でつくっていますが、息子はほとんどが個展用ですね。時代が違いますから、やり方もまったく違います。
工房の外で化粧土を塗ったうつわを乾燥させています。奥に座って仕事をしているのが息子であり9代目の創さん。
取材を終えて
「300年以上、一子相伝で技術を受け継いできた」と聞き、門外不出の製法が外に漏れないようにするためなのか、などといろいろ思い巡らせました。しかし、坂本さんにお話をうかがう中で、農家の人たちが先祖代々の田畑を耕して暮らしてきたように、先祖代々の生業を続けながら土地に根をおろして暮らし、日々、たんたんとこの里を守ってきた300余年だったのではないかと思いました。
大正時代、小鹿田焼は、柳宗悦(やなぎむねよし)をして「世界一の民陶」と称されました。民衆が、民衆の暮らしの中で使ううつわをつくる。時代が変わって、やり方は変わっても、今もなお、その精神が息づいているようです。
取材協力:坂本工窯 8代目 坂本工
撮影:諏訪貴宏
執筆:瀬戸口ゆうこ
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