日本工芸探訪~ルポルタージュ~

2019年06月14日

【唐津焼】シンプルでモダンな、想像力をかきたてるうつわ。「隆太窯」の親子三人の作家たち

「この鉢に煮っころがしを盛り付けたいね」
「この皿でカレーを食べたいよ」
「お刺身の薄造りをしたらきれいだろうなぁ」

佐賀県唐津市は見借の里山。木擦れの音と小川のせせらぎが響く、人里離れた山合いにある窯元「隆太窯」。ステンドグラスから柔らかい光が降り注ぐギャラリーで作品を見ながら、あれやこれやと話が尽きません。

ギャラリーにて。ステンドグラスが印象的な空間。ステンドグラスは隆さんのご友人によるものだそう。

そんな、想像力と食欲をかきたてるうつわをつくっているのは、中里隆さん、太亀さん、健太さん。親子三代で唐津焼の作家として活動されています。

5月のある雨の日、陶房を訪れると、クラシックが流れる空間で、太亀さんと健太さんが並んで、時々、笑顔で会話を交わしながら、ひたすらに作陶されていました。

陶房で作業中の太亀さん(奥)、健太さん(手前)。

残念ながら、その日は、隆さんは不在でしたが、作陶の合間に、太亀さんと健太さんにお話を伺いました。お二人のお話をもとに、「隆太窯」、そして、3人の作家たちをご紹介しましょう。

世界を舞台に活躍。「隆太窯」を開いた中里隆さん


陶房で作陶している中里隆さん。(写真提供:隆太窯)

今から45年ほど前、「隆太窯」は、隆さんにより開かれました。隆さんは、唐津焼十二代中里太郎右衛門(無庵)の五男として誕生。京都市立工芸指導所などで修業の後、種子島に渡り、熊野焼を復興した後に唐津に戻り、鉄分の多い土を使って焼しめた、独特の風合いの唐津南蛮を生み出しました。

今回の取材時には、残念ながらご不在でした。「父は海外に行ったり、あまりここにはいないんですよ」と、太亀さん。「一緒に並んで仕事をすることはあまりありません。祖父は、いつもあちこち飛び回って、いろんな人と交流しているようです」と健太さん。

隆さんの作品。下段の真ん中が、隆さんが新しく生み出した「唐津南蛮」の平皿。

デンマークのロイヤルコペンハーゲンや、アメリカ・コロラド州のアンダーソンランチなどから招待を受けて作陶するなど、海外での活動にも精力的に取り組んでいます。

現在、隆さんは82歳! 80歳の節目には、傘寿記念として、今までに制作した80個の壺を展示した個展を開催されたそうです。その制作地は隆太窯にとどまらず、全国各地、さらには世界各地にある17の窯場だというから驚きです。

2017年秋にまとめられた、隆さんの作品が収められた写真集「傘寿記念 中里隆 八十壺」。

現代的なセンスで“用の美”を表現。太亀さんがつくるうつわの魅力

作品をつくりながらインタビューに答えてくれた太亀さん。
時々、隣にいる健太さんも会話に加わり、和やかな雰囲気に。

使われてこそ美しい、“用の美”が魅力の唐津焼。優れた作品は、見た目が美しいだけではなく、心地よく使えて、心まで満たしてくれます。太亀さんは作品を作る時、どんなことを意識されているのでしょう。

「日本はうつわを手に取って食事をします。だから、実際に持ってみて、重くないか。料理を盛った時にどう見えるか。料理が映えるうつわになっているか。などと、使う時のことを考えながらつくります。

実際に使ってみないとわかりませんから。自分で料理をして盛り付けて、食べて、反省して。次の作品づくりに生かします」(太亀さん)。

太亀さんは、料理することも、食べることも、お酒を飲むことも大好きなのだそう。太亀さんのつくったうつわで食事をすると楽しく満たされた気持ちになり、お酒がぐいぐい進んでしまうのはそのせいかもしれません。

はずみ車を足で蹴る、昔ながらの「蹴ろくろ」も現役で使っています。

つくって、使って、反省して…。作品づくりは、試行錯誤の繰り返しなのだといいます。例えば、湯呑の口ひとつとってもそうです。

「父からは、湯呑は口をたっぷりと厚みを持たせてつくるものだと教わりましたが、私は、薄くした方が、口あたりがいいと感じたので薄くしてみたり。でも、薄くし過ぎると、見た目が弱々しいしい感じになってしまったり。すごく薄くつくった時期もありましたね。でも、実際に使ってみると、やりすぎたなと感じたりして、ね」(太亀さん)。

太亀さんは、この道に入って31年。「作風は、昔と今と変わりましたか?」と尋ねると、「変えてないつもりですが、その時々の考え方とか感じ方とかでどうしても変わりますよね」と答えてくださいました。

修業期間を経て5年目。10月には、親子三代での展示会初開催。

健太さん。この日、つくっていたのは「刷毛目」の小皿。

できあがった「刷毛目」の小皿。(写真提供:隆太窯)

修行は長く厳しいと思われがちですが、隆太窯では3年での卒業が目安だといいます。3年間で、基本的なヘラ使いを取得し、指でのばして湯呑がつくれるようになり、最終的には、徳利がつくれるようになるまでを目標とします。短期間ではありますが、技術を取得するのは大変なことです。

そして、卒業してからが本当の勝負。試行錯誤しながら、自分の作風をつくっていかなければなりません。

健太さんも修業期間を経て、5年目に入りました。昨年くらいから、ようやく自分の作品をつくりはじめました。

「今、つくりたいものは何ですか?」と尋ねると、「家に、醤油さしがないから、作ろうかな。鍋の時に使う取り皿も欲しいなあ。カレーをつくるのが好きなので、カレー皿もいいなあ」と、屈託のない笑顔で答えてくれました。

健太さんが、自分でつくったという釉薬の配合見本。

今年10月25日~10月29日には、親子三代での展示会が、東京・銀座の万葉洞みゆき店で開催される予定です。健太さんの作品が展示会でお披露目されるのは、これが初めてのことだといいます。どんな作品がお目見えするのか楽しみです。

隆太窯を訪れる前に、あるギャラリーに立ち寄りました。そこで案内してくださった方に、こんなことを言われました。

「唐津焼は、作品そのものを見るだけでも楽しいですが、ぜひ窯元に足を運んで、作家さんに会われるといいですよ。作品に人柄や個性が出るから、作家さんと話をしていると、『あぁ、この人がこの作品をつくったんだ』って、腹に落ちるんですよね」と。

今回は、隆さんにはお会いできませんでしたが、作品を見ていると、お会いしたくなってしまいました。また、きっと、隆太窯に行きたいと思います。

ぜひ、皆さんも、唐津の「隆太窯」に足を運んでみてください。陶房の見学も可能で、タイミングが合えば、作陶中の様子を見ることもできます。

また、2019年7月25日(木)~31日(水)には、東京・新宿の柿傳ギャラリーで『中里太亀 作陶展(仮題)』が行われます。お近くの方は、ぜひ足を運んでみてください。

取材協力:隆太窯

写真:諏訪貴宏(櫻堂)

職人圖鑑編集部

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